デジタルマーケティングの本質とは|宿泊事業者の伴走支援事例から

デジタルマーケティングの本質とは|宿泊事業者の伴走支援事例から
Photo by Ryoji Iwata / Unsplash

はじめに

今の時代、業種を問わずデジタルマーケティングはもはや当たり前の手段となっています。Instagramのストーリーを閲覧していればパーソナライズされた広告が表示され、Google検索ではキーワードに対応した検索広告がトップに表示される光景は、もはや日常となりました。

しかしながら、地方ではまだデジタルマーケティングの手法が一般的に用いられているとは言えません。日々様々な業種・規模の方と接する中で「ネット広告で売り上げがあがるの_?」など、デジタルマーケティングの即効性を期待するご質問をよくいただきます。

この問いへの答えのひとつとして、今回はある宿泊事業者におけるデジタルマーケティング伴走支援の事例をヒントに、デジタルマーケティングの本質、そして長期的な効果を追い求めていく必要性について述べたいと思います。


デジタルマーケティングとは

デジタルマーケティングとは、インターネットやデジタルデバイスを利用して商品やサービスを広報・宣伝する手法の総称です。具体的には、ウェブサイト、SNS、メールマーケティング、オンライン広告、検索エンジン最適化(SEO)、コンテンツマーケティングなど、さまざまなチャネルを通じてターゲットユーザーにアプローチします。

デジタルマーケティングの主な特徴は以下の通りです。

特定のターゲットに向けた情報発信

デジタルマーケティングでは、ユーザーのデータを活用することでターゲットとなる顧客層を詳細に特定できるため、自社の商品・サービスの魅力とマーケティングメッセージをより効果的・効率的に届けることが可能になります。

リアルタイムのデータ分析

オンライン上でのユーザーの行動データをリアルタイムで収集・分析することができるため、キャンペーンの効果を都度確認し、必要に応じて戦略を修正することができます。

コスト効率の高さ

従来の広告手法と比べてデジタルマーケティングは比較的低コストで実施できるため、導入しやすいことも特徴です。紙媒体の広告と比較した場合には、より売上などの成果に繋がりやすいターゲットに直接広告を表示させることができることも大きなメリットとなります。

インタラクティブ性

デジタルマーケティングは、顧客との双方向のコミュニケーションを可能にします。例えば、SNSを活用することで顧客からのフィードバックを即座に受け取り、商品やサービスの改善・開発に活かすことも可能です。

多くのチャネルを用いて多角的なアプローチを行うことは有効な施策のひとつです。しかし地方においてはリソース不足などの理由から、多数のチャネルを同時に運用することが難しいことの方が多いと思われます。クライアントの業種、商品やサービス、ターゲットとなる顧客層など様々な要素を勘案し、最適なチャネルを選定した上で売り上げ等の促進を図るための施策を講じていく必要があることは、実はあまり知られていません。

宿泊事業者の概要と評価

今回事例として取り上げる宿泊事業者は、宿泊数が伸び悩んでいる現状を打開するための新たなプランを立てたいと考えていました。これまでも宿泊データをもとにしたターゲティング、定期的なネット広告などを地道に行ってきた経緯があり、マーケティングの知識を身につけながら事業展開をされていました。

私たちはまず、当該宿泊施設の公式サイトについて、「宿泊客の獲得」という目的に基づき、ユーザー目線で以下のような項目に対する評価を行いました。

画像の適切さ

公式サイトに掲載されている画像は、施設や周辺環境を十分に魅力的に伝えることができるものであることが重要です。また、画像の解像度や構図、内容が訪問者に好感を持たれるものである必要もあります。

閲覧者のUX(ユーザーエクスペリエンス)

訪問者が公式サイトから宿泊予約を完了するまでのプロセスを解析しました。具体的には、ページの読み込み速度やナビゲーションの使いやすさ、予約フォームの入力のしやすさなど、ユーザーエクスペリエンス(UX)に配慮された構造になっているかを確認しました。

コンテンツの充実度

公式サイトに掲載されているコンテンツが訪問者にとって価値があるものかを検討しました。宿泊プランの詳細や施設の設備情報はもちろんですが、周辺観光地の紹介など、訪問者が滞在を検討する上でニーズがある情報は、予約獲得に向けた必須コンテンツです。また、ブログやニュースセクションの更新頻度もチェックし、サイトの新鮮さを保つためのコンテンツ戦略も評価しました。

ユーザーの閲覧プロセスの改善

デジタルマーケティングにおいて、公式サイトの閲覧プロセスを最適化することは非常に重要です。なぜなら、公式サイトは顧客との最初・最後の接点であり、サイト内での体験がその後の行動を大きく左右するからです。ユーザーがサイトに訪問した際にポジティブな体験を得られなければ、すぐに離脱してしまい、潜在顧客を逃してしまう可能性もあるのです。以下に、主な離脱理由(ユーザーがサイト閲覧をやめてしまう理由)を示します。

離脱理由1: ページの読み込み速度の遅さ

ページの読み込み速度が遅いと、ユーザーは待たされることにストレスを感じ、離脱する可能性が高まります。特に読み込み中のアイコン表示が少しでも長いと感じると、ユーザーはサイトの信頼性に疑問を抱いて閲覧をやめてしまいます。

離脱理由2: ナビゲーションの分かりにくさ

ユーザーが求める情報にたどり着くまでのナビゲーションが複雑だったり、不明瞭だったりすると、ユーザーはサイトの使い勝手に不満を感じ、離脱します。必要な情報にすぐに辿り着けるシンプルな動線・設計が有効です。

離脱理由3: モバイルフレンドリーでない

スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスでの閲覧が増加している中で、モバイルフレンドリーでないサイトはユーザーにとって使いにくく、離脱の原因となります。

離脱理由4: コンテンツの質の低さ

ユーザーが求める情報が不足していたり、コンテンツの質が低いと、ユーザーはサイトに興味を失い、離脱します。ターゲットとなる顧客層がどのような情報を求めているのか考え、ユーザーが有益な情報だと感じることのできるコンテンツの発信が必要です。

今回の事例では、公式サイトにアクセスした際に表示される「読み込み中」の表示時間とトップページで多くのユーザーが離脱している閲覧時間が非常に類似していたことから、読み込み中の表示そのものが訪問者の初回の閲覧を阻害しているという可能性を共有しました。読み込み速度を改善し、アイコンの表示は取りやめるなどの改善を行ったことは、デザイン面を重視しすぎず、UI/UXの考えに基づくサイト構成を行う必要性を認識していただくきっかけとなりました。

コンテンツマーケティングの強化と新プランの考案

宿泊施設を検索する際、ユーザーはどんなキーワードでホテルや旅館を探すのでしょうか。当社は引き続き、この観点をもとに公式サイトのコンテンツの見直しとSEO対策の強化に取り組んでいただきました。当時公式サイトに掲載されていたのは宿泊施設やプランの紹介が主でしたが、これだけでは宿泊客の関心を引くには不十分であると考えられました。そこで、時事やトレンド、周辺の観光施設など、宿泊客が興味を持ち、さらに検索キーワードとして見込まれるであろう文言を盛り込んだコンテンツの追加を行いました。

さらに、既存プランとは異なる新たなターゲット層に向けたプランを考案し、予約数の目標値を設定した上で実際にネット広告を用いて宣伝を実施。新プランの魅力や広告効果を実際に計測し検証しました。

観光施設の紹介

近隣の観光スポットやアクティビティ情報を詳しく掲載し、宿泊施設と地域全体の魅力を伝えることで、旅行プランの一部として宿泊を考えてもらえるようにしました。交通機関の情報等も組み合わせることで、具体的な旅行計画を想像できるような構成を推奨しました。

宿泊プランの紹介

プランの魅力を紹介するのではなく、ターゲットがそのプランを選ぶべき価値を提示するという視点で記事を再考いただきました。例えば、お子様を含む家族連れがターゲットのプランの場合、そのプランを予約することにより楽しめる宿泊体験、お子様との観光体験をしっかり想像してもらえるような記事の発信が、実際の予約に結びつく可能性が高いと考えられます。

新プランの考案

宿泊施設の形態がマッチするターゲット層はどこなのか、そしてどのような価値を顧客に提供できるかという観点でターゲットやポジショニングを明確化した上で、新たな宿泊プランを考案しました。周辺観光スポットを織り交ぜながら、設定したターゲット層に興味を持ってもらえるコンテンツ戦略を展開しました。

結果と考察

今回の宿泊業者への伴走支援において、公式サイトのコンテンツ見直しやSEO対策、新プランの考案と告知方法の改善を行いました。これらの施策の結果と、それに基づく考察を以下に述べます。

結果

公式サイトのトラフィックの増加

さらにネット広告の出稿により、公式サイトの訪問者数が大幅に増加しました。ネット広告がもたらす新規ユーザー数という明確な数値は広告効果を判断する上で非常に大きな指標のひとつです。広告で公式サイトに誘導したユーザーをコンテンツで引き付けて予約に繋げることは、新規予約を獲得する上で非常に大切な戦略となります。

予約数が伸びなかった原因の明確化

新たな宿泊プランの考案と告知を行いましたが、目標の予約数には到達しませんでした。こういった広告施策での失敗は「失敗例」と見なされ、分析や理由の解明が行われないことが非常に多いのが実情です。しかし今回の事例の場合、プラン内容自体にニーズが無いとは判断できません。なぜなら、プランに含まれる観光コンテンツが広告時期の情報として適さなかった可能性が考えられるためです。

シーズンごとの広報戦略を立てることが予約獲得に結びつく可能性を確認できたことと、プランを考案する際のターゲット設定・顧客価値の提供という考え方を事業者が理解したことが大きな成果であり、事業者からもプロモーション期間やプラン設定に時間をかける必要性を改めて感じるとともに、同業他社との差別化という考え方を経験できた点を評価いただきました。

考察

デジタルマーケティングの継続的改善の重要性

今回の事例を通じて、デジタルマーケティングは一度の施策で完結するものではなく、継続的な改善が必要であることが再確認されました。特に宿泊予約の獲得を目指すマーケティングには、短期ではなく中長期的な戦略が必要です。その理由は、ユーザーが旅行を計画して実際に予約するまでには相当の期間を要するため、いかに旅行を考えているユーザーが様々なニーズに応じて検索行動を取る際に当該宿泊施設に辿り着くか、または思い出してもらえるかが鍵となるからに他なりません。

ユーザー中心の視点の必要性

ユーザーの行動データを分析し、彼らのニーズや行動パターンに基づいた施策を講じることが成功の鍵となります。今回の事例では、ユーザーが求める情報、ユーザーが価値を感じるプランや過ごし方などの情報をコンテンツとして提供することなど、顧客目線での事業戦略・情報発信を行う必要性が再確認されました。

ローカルマーケットの特性の理解

地方の宿泊業者がローカルマーケットの特性を活かしたマーケティング活動を行うためには、地域の特性・魅力を反映したコンテンツを作ることや、エリア内のリソースを生かしたプラン・戦略を組み立てるといった方法が考えられます。

デジタルマーケティングの本質と長期的な効果の追求

デジタルマーケティングを成功させるためには、短期的な効果にとらわれず、長期的な戦略と顧客ニーズに基づいた施策を継続的に行うことが重要であることが、今回の事例で示されました。安易に即効性を求めるよりも、顧客が求める価値を提供し続けることで、持続的な成果を上げることを重視すべきなのではないでしょうか。

デジタルマーケティングの本質は、顧客ニーズを的確に捉え、それを商品やサービスに落とし込むことです。そして、その価値をSNSやネット広告などを通じて効果的に発信し続けることで成果が生まれ、持続的な成長につながると当社は考えます。

生成AIの活用 - mitsumonoAI

本事例では、宿泊施設公式サイトにおける情報発信の手段として「ブログ」機能を活用しました。ブログでの定期的な記事更新は検索エンジンからの評価を高めながら読者からの信頼を得ることができ、顧客との関係性も深めることができる非常に有効な情報発信施策となります。しかし、リソース不足のためブログ作成にかける時間が限られており、コンテンツの増加や品質向上に十分な時間を割けないという状況を勘案し、生成AIの使用を推奨いたしました。

ただしプロンプトをうまく作ることができず、思うような記事文章を作成できないという声や新たな課題も生まれました。当社は元よりシステム開発等を手掛けていることから、IT知識の少ない方でも簡単に扱えて導入しやすい生成AIツールが必要ではないかと考えました。

当社では現在、「mitsumonoAI」という文章生成・画像生成・動画生成・AIチャット・AIファイル分析・コード生成・音声生成・音声からの文字起こしをオールインワンで使用でき、Open AI・Claude・Gemini・Stable Diffusionの最新モデルを選択して使用できる生成AIツールを開発中(現在ベータ版として限定ユーザーでのPoC実施中)です。このツールは初心者でも簡単に文章を生成できるものであり、「リソース不足により公式サイトの記事を更新できていない」「ブログなどの記事を書くのが苦手」といった担当者の悩みに寄り添う本格的な機能を備えています。

まとめ

本記事では、宿泊事業者の事例から、デジタルマーケティングの本質とその効果を最大限に引き出すためのアプローチの一例をご紹介しました。宿泊という業種においては、ネット広告における長期的な視点での効果計測と継続的な取り組み・改善を行うことが重要であり、そもそも顧客を獲得するためには、まずユーザーのニーズを的確に捉え、彼らにとって価値のある情報や体験を提供できる宿泊施設であるという必要性も、改めてご認識いただけたのではないでしょうか。

ご紹介したようなデジタルマーケティングを行うためには、やはり人的リソースは不可欠です。しかしリソース不足という課題は今後さらに深刻化していくと言われています。mitsumonoAIのような生成AIツールを導入し、最小限のリソースで効率的に高品質なコンテンツを作成できれば、デジタルマーケティングの効果を一層高めることも可能です。生成AIの活用や、企業の事情に寄り添ったAIシステム開発にご興味のある方は、ぜひお問い合わせくださいませ。